Francisco Lopez 「Wind」


自然音・環境音を用いた多くの作品をリリースしている
フランシスコ・ロペス氏の「La Selva」、「Buildings」に続く三部作最後を締めくくる作品
「Wind」(2007年and/OARのリリース)を聴いた。
タイトル通り、荒涼としたパタゴニア大地に吹き荒れる風の音の60分間のドキュメントである。
ジャケットに載っている本人の解説によれば音の加工やミックスはしていないとのこと。
さらに氏は、風は目に見えないが、植物や岩、砂、雪、氷のような変換物を通して聴くことができ、
我々の空間認識・距離感そして我々自身の身体知覚にさえ影響を及ぼしている、としている。


ある音を通じて空間の大きさが立ち現われるような、音が媒介する空間認識という点では
角田俊也氏の作品にも通じるところがあるだろう。また本来フィールド録音では焦点を当て
られることが少ない(多くの場合むしろ風防などを使い避けられる音である)「風の音」に
フォーカスしている点が面白い。だが実際「風の音」は録ろうとしてもすぐクリップしてしまう。
この作品ではかなりの強風をクリップせず録音しているので、単純にウインドシールドやウインド
ジャマーを使っているのではなさそうだ。風を強力に遮る囲いのようなものにいれて録音したの
だろうか。
 
個人的には、風の音が水の音などより思考を遮らないというのが新しい発見であった。
自分の場合、文章を書いたり考え事している時に気にならない音(楽)というのは本当に珍しい。